本当に怖い物語は、君の頭の中に取り憑くんだ。

帯に書かれたこの一文と緒方剛志の沈んだ表紙イラスト。発売当初、内容も確認せずに衝動買いした作品である。
見世物小屋こっくりさん、霊界ラジオ、新興宗教、文化祭……。ミステリ系のジュブナイルにとって魅力ある小道具が散りばめられている本書は、作品の完成度はそれほど高くない。癖のある文章は読者を選ぶし、結末もスッキリしない。
だがその一方で、作品全体を包む不安定な雰囲気は、一度魅了されてしまうと、抜け出すことができない。
作者は五四年生まれ。怪奇小説などの翻訳や評論を主な活動にしているらしい。本書は
九十年に単行本として発売され、〇二年に角川スニーカー文庫のミステリ倶楽部として文庫化された。
 人は誰しも物語を一つは産み出すことができる。だが、二つ、三つと続けることは難しい。本書の作者がどのような理由で他に小説を書いていないのかは分からないが、この作品で自分の内にある妄想を全て吐き出して満足したのでは、とボクは身勝手に想像している。
 なお、冒頭の「本当に怖い物語は、君の頭の中に取り憑くんだ」は作家の篠田節子氏の解説文の一部である。本書はこの解説文だけで買う価値があるので、解説文だけは是非一読を。