悪人列伝 中世篇

自分ランク:B
100冊58冊目


 歴史上の人物は自ら弁護する自由がない。だから評伝するにあたっては、検事の論告のようであってはならない、判事のようであるべきだというのが著者の態度だ。
この巻には、藤原兼家梶原景時北条政子北条高時高師直足利義満の六人をとりあげ、従来の悪人像を人間的な史眼によって再評価している。
 個人的好みでいえば、ボクは高師直足利義満といった人物が大好きである。高師直は騒乱の南北朝時代を象徴するかのような悪役ぶりだし(人妻を手に入れたい為その亭主に謀反の罪を着せてぶち殺すなど、まさに絵に描いたような悪役である)、足利義満天皇や公家を屁とも思わない傲慢な態度も実に好ましい。筆者は義満を驕児と評しているが、ボクはこうした屈託なく育ち、そのスケールの底が知れない驕児が大好きなのだ。そう言えば、司馬遼太郎高杉晋作に対して、そのような表現をしていたっけ。
 本書に登場する悪人達は、実のところ世間で言われる悪人ではなく、時代や背負っていた背景によって、悪人に祭り上げられた者達であり、そうした人物に対して冷静な評価を下しているのが本書だが、個人的には悪人は悪人のままがいいと思うのだ。