日本名城伝

新装版 日本名城伝 (文春文庫)

新装版 日本名城伝 (文春文庫)

自分ランク:B
100冊57冊目


 城にもそれぞれ個性がある。岐阜城はただ一人を除いてすべて非業の死をとげていることや、小田原城の歴史は一種の震災史であり、そして姫路城には女のからんだ秘話が多い。南は熊本城から、北は函館五稜郭まで十二の名城にまつわる史話を歴史文学の第一人者であった著者が縦横に語った興趣つきない好連作集。
 海音寺氏は明治34年生まれで、戦前から昭和50年まで活躍した歴史作家である。今で言えば司馬遼太郎氏の位置にいた作家であろうか。
 この本は「小説」ではなく「史伝」である。海音寺氏の作品には、この史伝という形が多い(武将列伝シリーズや悪人列伝シリーズ等)。史伝であるからなのか、筆者の考えや主張、推理、評価が前面に押し出ている。司馬氏の作品が、人物や事件について婉曲に語ることが多いのとは対照的である。
本書においても海音寺節は絶好調であり、氏の歴史観に不快を抱かない人なら興味深く読めるであろう。